吉川英治記念館とは

館長の一言

50年

 今年、吉川英治文学賞と文化賞が第50回を迎える。半世紀を経たのだ。

 数年前、所用で小倉へ旅した折、松本清張記念館で、第1回の文学賞受賞者だった松本清張さんを囲んで、当時の講談社野間省一社長と私の母の3人が微笑んでいる記念写真が展示してあるのに出会って感慨にふけったことがあった。

 その時に思ったのは、賞というものは樹木と同じだなということだった。

 創設された当初はまだ苗木のようなものである。賞に冠した名前はあるが、権威とか重みというものにはまだ欠けている。

 しかし、1年、2年と増えてゆく受賞者の方々の顔ぶれ、業績といったものを吸収して幹は太く、枝葉は伸びていく。賞そのものの重みが増していくのだ。

 初回からの受賞者一覧を見ても、絢爛豪華である。昭和の中ごろから現在まで、文壇に重きをなす男女の作家とその作品がずらりと並んでいる。この賞は歴代受賞者のおかげで大きく育ってきたのだ。

 それは文学賞と同時に創設された文化賞も同じである。受賞者は毎年3名から5名という基準で選ばれるため去年までで214人に上る。様々な分野で永年にわたり優れた業績を上げながら報われない人……という選考基準のため無名の方が多いが、多種多様な分野から選ばれた受賞者の尊いお仕事には頭が下がる。

 もうひとつの文学新人賞は、前記2賞に遅れること13年目の昭和55年創設だが、それでも今年第37回となる。

 この賞を経て、直木賞そして吉川文学賞へと伸びていく作家は多く、新人作家の垂涎の的となっているらしい。

 それもこれも歴代受賞者の方々の努力の重みである。3賞そろって大樹となりつつある。

 その吉川3賞に、50年を記念して、今年から新たに吉川英治文庫賞が創設される。

 文庫賞というと耳慣れないが、いわゆるシリーズ物の作品、作者を顕彰しようというのである。

 近年、シリーズとして何年も書き継がれていく作品が各社の文庫に多く、読者の人気も高い。一つ一つの作品は優れたものも多いのだが、シリーズとしては未完で賞として取り上げにくい。そこで現在進行中のシリーズをも取り上げて光を当てて行こうという賞である。

 この春発足する文庫賞第一回は誰の作品か、そしてこの先どのような大樹に育つか、今から楽しみである。(20160301)

吉川英治国民文化振興会理事長
吉川英治記念館館長
吉川英明

吉川英治記念館配置図

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母屋
離れ
長屋門
井戸
椎の木
遊歩道
展示室
吉川英治記念館所蔵資料

 吉川英治記念館では蔵書を含む約2万点の収蔵資料のうち、入れ替えながら300点を常設展示をしていますが、研究者他の要請に応えるため、直接資料、関連資料の収集につとめています。

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草思堂写真館

 ここは、吉川英治が昭和19年3月、家族と共に東京赤坂 から疎開し、昭和28年8月まで生活していたところです。

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四季の花々

 草思堂庭園に咲く四季の花々をご紹介します。

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吉川英治と青梅

 東京都のイメージからはかけ離れた自然豊かで山深い青梅市柚木町、かつての西多摩郡吉野村に、吉川英治記念館はあります。

 「宮本武蔵」「三国志」などの作品で国民的作家となった吉川英治は、昭和19年3月、都心の赤坂区(現港区)からこの地に移り住みます。

 形の上では戦時下の疎開のようですが、この3年前、太平洋戦争開戦以前に既に家を購入するなどの準備をした上での決意の移住でした。吉川英治はこの吉野村の家で昭和28年8月までの9年5ヶ月を過ごしますが、生涯で一番長く住んだのがこの家でした。

 時は、日本が敗戦に向かい、人々が大きな挫折と戦後の復興の苦難を味わっていた時代でした。

 昭和20年、日本が敗戦を迎えると、吉川英治はその衝撃から「私は世の人々から忘れられたい」とまで苦悶した末に断筆。その後2年間、晴耕雨読の生活を送ります。それとともに地元の住民との交流を深め、俳句の指導や公民館建設への尽力などの足跡を残します。それは同時に、吉川英治自身にとっても、青梅の豊かな自然と住民たちの素朴な人情によって癒される日々でもありました。

 やがて吉川英治は執筆を再開し、畢生の大作「新・平家物語」をこの地から世に問うことになります。

 吉川英治にとって青梅は、敗戦の挫折を乗り越え、再び作家の道を歩み始めた《再生の地》となったのです。

吉川英治記念館の成り立ち

 昭和40年、吉川英治の業績を顕彰するため財団法人吉川英治国民文化振興会が発足し、吉川英治賞が設立されました。

 その後、この財団によって青梅の吉川英治旧邸の敷地内に、昭和52年、吉川英治記念館が開館しました。

 『宮本武蔵』『新書太閤記』『三国志』『新・平家物語』『私本太平記』といった戦前・戦後を代表する歴史小説。人々を熱狂させた『鳴門秘帖』『神州天馬侠』などの時代小説。絶筆となった『新・水滸伝』。それらの作品の原稿やゲラや挿絵、初版本などの他、数多く書き残した書画類を展示しています。

 吉川英治の文学がそうであったように、吉川英治記念館もまた、文学研究者や愛好家のためだけでなく、広く一般の方々に喜んでいただける存在でありたいと考えています。