大江健三郎賞
「大江健三郎賞」

1957年「奇妙な仕事」で鮮烈なデビューを飾った作家・大江健三郎氏は、
その旺盛な創作活動によって、常に日本文学をリードしてきました。
また、1909年創業の講談社は、出版文化を通じて、世界の人々との相互理解を深めるべく、微力を尽くしてまいりました。
大江氏作家生活50周年、講談社創業100周年を記念するにあたり、日本文学に新たな可能性をもたらすとともに、世界文学に向けて大いなる潮流を巻き起こすことを目的に、
ここに「大江健三郎賞」の創設しました。

大江健三郎氏

大江健三郎賞
選考委員大江健三郎氏
選考基準大江氏が、可能性、成果をもっとも認めた「文学の言葉」の作品を選び、受賞作とする。なお、選評の代わりとして、大江氏と受賞作家との公開対談を行い、「群像」誌上に掲載する。(公募はしておりません。)
受賞作品の英語(あるいはフランス語、ドイツ語)への翻訳、および世界での刊行。
対象作品毎年1月から12月までの1年間に刊行された作品を選考対象とする。
発表毎年、「群像」5月号誌上にて受賞作を発表する。
主催講談社



「文学の言葉」を恢復させる

大江健三郎

  いま情報テクノロジーの支配する社会で、もっとも痩せているのが、「文学の言葉」です。「ケータイ」とインターネットの表現が、この国の人間の表現をおおいつくす時代が遠からず来る、それが老作家のペシミズムです。しかも、そこに大逆転の時がありうる−世界的にその徴候が見えている−という思いも棄てられません。

  そうなれば、若い層から実力ある働き手の層にまで、知的で柔軟な、言葉の革新をなしとげる新種族が登場するはず、と私は信じます。その革新の手がかりとなるのが、この国の近代化でつねにそうであったように「文学の言葉」だと続けると、我田引水にすぎるといわれるかも知れません。しかし、漱石のみならず、諭吉も、まず「文学の言葉」の人だったと考えて、かれらのもたらした流れを辿り直してはどうでしょうか?

  私は永く「文学の言葉」で生きてきました。そしていま、社会の表現と認識の言葉をリードしてゆく層の人たちが、「文学の言葉」と無縁になっているのを実感します。また外国の知識人が、日本の知識人の言葉をどこに見出せばいいか、戸惑っているのにも気付きます。

  私は自分の晩年の仕事をやりながら、T・S・エリオットの「老人の愚行(フオリー)」という言葉に挑発されていました。生きている内に自分の名の文学賞を作るなど、その一種ですが、死んでからではやることができないと思いきって引受けました。私は、いまも注意深く見れば創られている、力にみちた「文学の言葉」を、知的な共通の広場に推し立てたいのです。上質の翻訳にして世界に向けても押し出します。

  そして、この国でも海外でも、あの「文学の言葉」に共感した、ということが相互理解のきっかけだった、善き時代をよみがえらせたいとねがいます。




「大江健三郎賞」創設の辞

「大江健三郎賞」運営委員長 野間省伸

  講談社は創業者野間清治の掲げた「面白くてためになる」出版を通して、文化の向上と豊かな社会の実現に努めてまいりました。

  一九〇九年の創業以来、時代の大きなうねりに飲み込まれることなく、文学という豊かで幅広い流れを見失うことのないよう、出版文化の一隅で微力を尽くしてまいりました。

  時代を取り巻く要因が変わっても、小社の出版にかける理念は変わることはありません。常にいま何が出来うるかを最優先の課題とし、一歩一歩進んでいくことが、ひいては大きな流れを創り出すことになると信じて止みません。

  出版という事業を通じて、広く世界の国々や人々への理解を深めることは、私たちの願いです。創業七〇周年を記念した「野間アフリカ出版賞」、八〇周年に創設した「野間文芸翻訳賞」もこの願いにむけての一歩となれば、との思いから計画され、いまに継続されております。

  講談社創業一〇〇周年を迎えるにあたり、出版に身を置くものとして、日本から発信した出版文化が、世界の相互理解をさらに推し進めることになるように希求いたします。

  このたび、ノーベル文学賞受賞者である大江健三郎氏のお力添えをいただき、講談社の新しい世紀に向けての使命を果たすべく、ここに「大江健三郎賞」の創設を発表いたします。

  大江氏の広く深い読書量と、世界、時代に対する透徹した批評精神は、日本文学に新たな発展と可能性をもたらすに違いありません。氏の文学観を共振させ、世界文学に向けて、日本から大いなる潮流を巻き起こします。



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